琉球大学教授
グローバル教育支援機構
保健管理部門
医師:崎間 敦
コロナ禍における熱中症対策
はじめに
皆さん、残暑お見舞い申し上げます。まだまだ、暑さがこたえる毎日です。ご自愛ください。さて、新型コロナウイルス(COVID-19)対策でマスク装着が新しい生活様式のルーチンになっていますが、高温多湿化の環境下でのマスク装着は身体に負担がかかることがあります。また、COVID-19感染の症状と熱中症の症状は似ているところも多いです。そこで、今回のコラムはコロナ禍における熱中症対策についてまとめます。
増加する熱中症
近年、熱中症が増加しています。特に2007年には全国の動物園の動物たちが熱中症の被害にあったことを記憶されておられるみなさんもいらっしゃるのではないでしょうか。熱中症が増えてきている要因はいくつか考えられています。
その中で、ヒートアイランド現象と呼ばれている環境の変化が あります。ヒートアイランド現象の主な原因として、人口排熱の増加、都市形態の高密化、地表面被覆の人工化等があげられます。
温室効果ガスの発生も地球温暖化に関係していることが知らせていて、熱中症と関係しているかもしれません。畜産業を営む方はよく知っていると思いますが、畜産と温室効果ガスの関係が言われています。反芻する家畜の特に牛は「ゲップ」や「おなら」が多いですが、牛のゲップに含まれる温室効果ガスは豚の6倍 以上との報告があります。少し横道にそれてしまいました。
気温だけではない
熱中症は気温上昇とともにその発症リスクが高まる ことが、知られていますが。気温だけではないことを知っていますか?熱中症の発症には気温、湿度、輻射熱の3要素が関係しています。
この3要素を合算した温度が 熱中症のリスクとよく相関しています。
3要素を合算した温度をWBGT(湿球黒球温度)といいます。
専門用語になりますが、WBGTはWet Bulb Globe Temperatureの略です。WBGTは乾球温度(気温)、湿球温度(湿度)黒球温度(輻射熱)の3つの温度を同時に測定して合算した温度です。
WBGT計は気象台や炎天下、高温多湿の 現場・職場(工場、工事現場、グランド)に設置されています。
気象庁や各地の気象台から熱中症指数や熱中症警報が発せられますが、それはWBGTを基にしています。
熱中症の重症度分類
熱中症とは高温環境による生体障害の総称です。熱中症が起こる主なメカニズムは、多量発汗による水分・塩分の喪失(脱水)による血液循環の障害と体温調節機構の破綻によるうつ熱・高体温です。表1に熱中症の重症度分類をまとめます。
特に分類Ⅱ度は大事です。Ⅱ度の状態を速やかに対応すれば大事に至りませんが、その状態を放置してしまうと、重症化してⅢ度に進行します。Ⅲ度は命に係わるケースもありますので、Ⅱ度の状態をしっかり理解して、対処するようにしてください。Ⅱ度のうち、熱中症になっている当事者が自力で飲水できるかどうかは重要なポイントです。
自力で飲水できるのなら、その時点の対応で熱中症が改善するケースがほとんどです。一方、一見すると元気そうでも、自力で飲水できない場合は、重症化する可能性があります。
もし、そのような場合は躊躇せずに救急要請あるいは医療機関を受診してください。
コロナ禍における熱中症予防
熱中症予防の基本は、外出時は暑い日や時間帯を避け、涼しい服装を心がけること、エアコンを適切に活用すること、涼しい場所で過ごすこと、日頃の健康管理を実行することです。ここでは、環境省や厚生労働省が推奨しているコロナ禍における熱中症対策の際のマスク装着の注意点のポイントを示します。マスクの装着は感染対策に有効であり、COVID-19対策でマスク装着が新しい生活様式のルーチンになっています。一方、マスクの着用により心拍数や呼吸数、血中二酸化炭素濃度、体感温度が上昇するなど、身体に負担がかかることがあります。
従いまして、高温・多湿の環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高くなるおそれがあります。屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクをはずしてもよいとされています。マスクを着用する場合には、強い負荷の作業や運動は避けのどが渇いていなくてもこまめに水分補給を心がけてください。また、周囲の人との距離を十分にとれる場所では、マスクを一時的にはずして休憩することも必要です。
熱中症の重症度分類
分類 | 症状 | 重症度 |
---|---|---|
Ⅰ度 | めまい、失神、筋肉痛 筋肉の硬直、大量発汗 | 軽症 |
Ⅱ度 | 頭痛、気分不快、吐き気嘔吐 倦怠感、虚脱感 | 中等症 |
Ⅲ度 | 意識障害、痙攣、 高体温手足の運動障害 | 重症 |
おわりに
COVID-19感染症と熱中症は発熱あるいは高体温、倦怠感、食欲不振、筋肉痛など似たような症状が多く、症状だけでは 区別が難しいことがあります。臨床の現場では、発症状況、経過、行動歴などを合わせて総合的に判断することになります。したがいまして、普段から熱中症にならないように心がけることが大切になってきます。コロナ禍では室内で過ごす時間が長く、暑さに馴れず、汗をかきにくい体になっています。例年以上に熱中症に対する注意が必要です。まず体調を整えましょう。睡眠不足など、体調がすぐれないときは、暑い日中の外出や運動は控えて下さい。服装にも注意して下さい。風通し良い服を着て、外出時にはきちんとつばの広い帽子をかぶりましょう。「のどが渇いた」と感じたときには、すでに水分 不足になっていることが多いです。こまめに水分補給も忘れないでください。