健康NEWS 2021年5月 B面 COVID-19は心臓血管病を引き起こす!なぜ?

琉球大学教授
グローバル教育支援機構
保健管理部門
医師:崎間 敦

当初、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)は、新型コロナ肺炎と呼ばれていました。記憶されている皆さんも多いと思います。その後、呼吸器疾患やサイトカインストーム(免疫の暴走)といった呼吸器や炎症・免疫の病気だけでなく脳卒中、心筋梗塞などの血管合併症を引き起こすことが明らかとなりました。
今回のコラムでは、なぜ、COVID-19は心臓血管合併症を起こしてしまうのかについて、簡潔にまとめます。
さて、図1にCOVID-19 が私たちの体内に入り込みこむ仕組みを示しました。COVID-19のウイルス表面にあるトゲトゲ(スパイク)が、ACE2(エースツー)という酵素に結合します。ACE2はCOVID-19の受容体として、COVID-19とACE2の複合体を形成します。この複合体が細胞の表面に移動します。すると細胞表面が内側に凹んでいって複合体を取り込みます。このようにして、COVID-19の感染が成立します。細胞内に取り込まれたCOVID-19は爆発的に増加する ことにより、いろんな症状や病気を起こします。

図1. COVID-19はどうやって細胞内に侵入するか?

ところで、COVID-19の受容体として作用するACE2とは、本来、私たちの体の中でどのような役割をはたしているのでしょうか。図2をご覧ください。私たちはレニン・アンジオテンシン系(RAS;ラスといいます)というホルモンシステムを持っています。RASは私たちの体内の水電解質・自律神経・血圧・心臓血管機能 細胞の増殖や修復・炎症反応などの様々な役割を持っています。すなわち、RASは生命のバランスを適切に保つためになくてはならない大変重要な仕組みです。このRASのアクセル役がアンジオテンシンⅡ(アンジオテンシンツー)、ブレーキ役がアンジオテンシン-(1-7)(アンジオテンシンワンツーセブン)です。アクセル役が過剰に頑張りすぎると、高血圧、動脈硬化、心肥大、腎臓病、炎症などの病気の   原因となってしまいます。血圧のくすり(降圧薬)のなかには、このアクセルをブロックする作用をもったACE阻害薬(エース阻害薬)とARB(アンジオテンシン レセプター ブロッカー)があります。一方、ブレーキ役のアンジオテンシン-(1-7)はアンジオテンシンⅡのアクセルを制御する役割を担っています。そして、ACE2はブレーキ役のアンジオテンシン-(1-7)を生成する酵素です。

図2.COVID-19とレニンアンジオテンシン系

したがいまして、COVID-19がACE2に結合すると、ACE2は本来の機能を失ってしまい、アクセルとブレーキのバランスが破綻してしまいます。すなわち、COVID-19が感染するとRASのアクセルがどんどん加速していき、心臓血管病が起こりやすい状態、サイトカインストームが起こりやすい悪循環に陥ってしまうのです(図3)。このようなメカニズムのために、COVID-19は血管合併症を起こすリスクが高いことが考えられています。表1にCOVID-19 感染の進行や重症化 リスクの高い人の特徴をまとめました。高血圧、糖尿病、循環器疾患、腎臓病なのど基礎疾患を有する者、肥満者および喫煙者は、既に動脈硬化が存在していたり 再発も含めた心臓血管病が起こりやすい状態、サイトカインストームや血栓ができやすい状態にあります。これらを考え合わせると、COVID-19の感染予防に加えて、生活習慣病対策も私たちの命を守る術(すべ)になるのではないでしょうか。

図3.COVID-19が引き起こす臓器合併症

COVID-19感染の進行や重症 重症化リスクの高い人の特徴

・加齢
・肥満
・高血圧
・糖尿病
・喫煙
・循環器疾患(脳卒中、心筋梗塞、心不全)
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・慢性腎臓炎(CKD)
・がん
・悪性疾患(特に化学療法中、放射線治療中)

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